高橋、羽生と世界のライバル勢力図。四大陸選手権は日本男子が独占も!?
田村明子 = 文「この大会のレベルはクレイジーなほど高かった。日本人やカナダ人たちに、ぼくたちがここにいることを知らしめることができたと思います」
1月末、クロアチアのザグレブで開催された欧州選手権の記者会見。2位になったフランスのフローラン・アモディオはまず口を開くなり、そうコメントした。
正直に言うと、欧州選手権に来ていきなり「ジャパニーズ」という言葉を耳にするとは思ってはいなかった。
ニース世界選手権でパトリック・チャン、高橋大輔、羽生結弦の3人がメダルを獲得したのは、およそ10カ月前の2012年3月のこと。世界の男子の表彰台にアジア系3人が並んだのは、この大会が史上初のことだった。
そして12月のソチGPファイナルでは順位が高橋、羽生、チャンになったものの、同じ顔ぶれが表彰台を占めた。
いずれの大会も欧州を舞台にしながら、日本、北米勢がメダルを独占してきたことを、欧州の選手たちがどれだけ屈辱的と感じていたのか、ザグレブでは改めて肌で感じた。
GPシリーズ6大会中4大会で日本男子が優勝するという時代。
昨シーズン独走優勝を続けていたチャンがまだ本調子でないだけに、今シーズンはことさら日本男子の活躍ぶりが目に付いている。
GPシリーズでは、6大会中4大会で日本男子が優勝。特に初戦のスケートアメリカから、いきなり小塚崇彦、羽生結弦、町田樹の3人が男子の表彰台を独占した。それまでGP大会のメダルを手にしたことのなかった無良崇人がフランス大会で優勝したことも、自国開催で優勝候補だったアモディオにとってショックだったに違いない。
そして全日本選手権での、凄まじいとしか言いようのないレベルの高いメダル争いは、世界中のスケート関係者がインターネット映像を通して見たはずである。長い間、世界のトップクラスで戦ってきた高橋大輔が、あれほどの演技を見せても優勝はかなわなかった。そんな過酷な国内選手権が、いったい世界のほかのどの国にあるというのだろう。
海外勢にしてみたら、打倒ジャパンとばかりに闘志を燃やしてくるのも無理はないのかもしれなかった。
欧州王者の座は、プルシェンコからフェルナンデスへ。
「今日はハビエルのやり遂げた偉業を祝福したい。彼のことを本当に誇りに思う」
2位だったアモディオ、3位だったミハル・ブレジナとも、異口同音にそう繰り返した。自分たちのメダルよりも、欧州から、世界のトップ3人に挑戦できる選手が出てきたことを、心の底から喜んでいるように聞こえた。
かつての帝王エフゲニー・プルシェンコは、公式練習の転倒でもともと痛めていた背中の負傷を悪化させ、SP6位に終った後に棄権した。試合直後にイスラエルで、背骨のディスクを人工のものに入れ替える手術を受けたと報道されている。現在30歳のプルシェンコが、本人が望むようにソチ五輪に出場できるのかどうか、出場できたとしても以前のような強さを見せることができるのか、現在のところまったくわからない。そんな中で、欧州勢の期待を一身に背負っているのがフェルナンデスなのだ。
「ヨーロッパの選手と他の四大陸選手のぶつかり合いになる」
確かに、新欧州王者となったハビエル・フェルナンデスは素晴らしい演技を見せた。彼は現在、おそらく世界でもっとも四回転の成功率が高い選手だろう。サルコウとトウループの2種類を武器に持ち、あまりにも軽々と降りるため、三回転に見えるほどだ。ザグレブのリンクではSPで1回、フリーで3回の合計4度、四回転を成功させて274.87という高得点を叩き出した。これはチャン、高橋の記録に次ぐフィギュア歴代3番目の高得点である。
「世界選手権は、ヨーロッパの選手と他の四大陸選手のぶつかり合いになるでしょう。ここでの戦いは厳しかったけれど、世界選手権の戦いはもっともっと厳しいものになる」と、フェルナンデスは優勝会見で言った。彼はブライアン・オーサー・コーチのもと、羽生と一緒にトレーニングをしている。それだけに親日家でもあると同時に、練習熱心な日本の選手の怖さを熟知している。欧州タイトルを手にしても、舞い上がって軽々しいことを口にするような様子はまったく見せなかった。
大阪での表彰台は日本男子が独占する可能性十分。
その四大陸選手権が、大阪で2月8日から開催される。
この大会は、もともと欧州選手権に相対する大会として国際スケート連盟が1999年に創設したものである。だが19世紀の終わりから開催されている伝統ある欧州選手権に比べて、格もレベルも欧州選手権になかなか追いつかなかった新参の競技会だった。
かつて「欧州チャンピオン=世界チャンピオン」という時代があったのも、それほど昔のことではない。だが気がつくといつの間にか、世界の男子トップは四大陸選手権のメダリストが占める時代が到来した。
もっとも昨シーズンの四大陸選手権チャンピオンであるチャンは、今回は大阪にタイトルを守りに来ない。世界選手権に備えるために、ホームリンクで調整をするのだという。世界選手権の一カ月前に、最大のライバルたちの国で開催される大会でタイトルを失うリスクを負いたくないというのは、無理もないことだろう。
日本からは、全日本選手権のメダリスト3人が出場する。
新チャンピオンの羽生結弦、高橋大輔、そして無良崇人。全米選手権も予想外の展開で3位に終ったベテランのジェレミー・アボットがアメリカ代表をはずれた中、大阪の表彰台は日本男子が独占することは十分に可能だ。
欧州勢は、ザグレブでその実力を存分に見せてくれた。今度は、アジア、アメリカ、アフリカ、オセアニアの四大陸から集まった選手たちが演技を通して全世界にメッセージを発する番である。
こうしてロンドン世界選手権、そしてソチ五輪まで厳しい戦いは続いていく。
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