☆キム・ヨナがパーフェクトで優勝、浅田は成長の演技で銅
終わってみればベテラン組の圧勝だった。ISU 世界フィギュアスケート選手権 2013の女子フリースケーティングが3月16日行われ、キム・ヨナ(韓国)が完璧な演技で218.31点をマークし優勝、ショートプログラム6位の浅田真央はミスはありながらも質の高い内容でフリー2位に追い上げると、総合196.47点で銅メダルを獲得した。カロリーナ・コストナー(イタリア)は完成度の高い演技で銀メダル、村上佳菜子は力強い演技で4位と大健闘、鈴木明子は調子が上がらず12位となった。
浅田、6年ぶり自己最高
「ここまで努力してきてよかった」
完璧ではなかった。しかし成長を示す演技だった。ここ2年連続で世界選手権6位だった浅田は、14日のショートで6位発進となると、「ここまでやってきた事は何だったんだろうという思いがあった」という。
それでもショートではトリプルアクセルを成功したことを胸に、フリーの6分間練習でも流れのある綺麗なトリプルアクセルを決めた。「今シーズン後半は、トリプルアクセルを入れられるコンディションに持って来れている。最高のレベルで練習してきた」。そう自信を得た浅田は、演技冒頭のトリプルアクセルを「無心で跳びました」。
結果は両足着氷だったが、回転は足りており認定。「回りきっていたのであともう少し。あとは(左足を後ろに)引くことだということが、ちょっと意識が薄れていました」という。続く3回転+3回転の連続ジャンプでミスはあったが、そこから後半は安定感のある演技で魅せた。
「最後は気持ち良く自分の力を出せました。ミスもあって得点はそこまで伸びなかったけれど、今季は初戦からの練習の過程がすごく充実していましたし、ここまでやってきて良かったと思えました。来年は五輪なので、しっかり練習して力を発揮したいです」。3年ぶりのメダルを胸にほほえんだ。
キム、完璧演技でハイスコア、コストナーは精神力を示す名演技
キムは、精神力も技術力もすべての力がピタッと合わさったような、完璧な演技だった。冒頭の3回転ルッツ+3回転トウループの連続ジャンプは、流れもスピードもあり、まったく不安を感じさせない。『レ・ミゼラブル』の悲哀あふれるストーリーを、全身を使った演技で表現した。
得点は148.34点の高得点。これは浅田より14点近く、コストナーより18点以上も高い、圧倒的なスコアだった。すべてのジャンプを回転不足なく着氷し、その出来栄えもほとんど「+2~3」。一点のミスもなく途切れない演技は、ジャンプの転倒などでバタバタしてしまう演技に比べて、自然と芸術面の得点もプラスになる。結果、「演技」と「音楽表現」で9.36点と高い評価を得た。
緊張感ある演技が終わった瞬間、フウッと大きく息をつく。ノーミスの演技への笑顔というよりは、安堵の顔だった。「ベストを尽くしたので良い得点になると思って結果を待ちましたが、まさかこんな高得点になるなんてびっくりです。今回は復帰ということで注目されて色々なプレッシャーがありましたが、普段の練習でミスなく滑りきっているので、自分を信じて落ち着いて滑りました。自分にとって最後かもしれない世界選手権でいい演技をできたことが本当に嬉しいです。韓国の若いスケーターたちのために五輪3枠をとれたことが一番の収穫です」。そう話すキムの顔はちょっと大人びて見えた。
銀メダルのコストナーも、名演技だった。フリー直前に鼻血が出るも、演技をスタート。ハプニングを感じさせない落ち着いた演技で、雄大な3回転ルッツや、3回転フリップ+3回転トウループを成功させていく。『ボレロ』のモーリス・ペジャール版を取り入れたモダンな振付の演技を見事に演じきる。
「(鼻血が出たが)とにかく自分に演技に集中しようと思い、観客が声援を送ってくれているのも見えたので、中断はまったく考えませんでした。こうしてメダルを取ることができて誇りに思います」とコストナー。精神面が弱いと言われてきた彼女が、誰よりも強い心を示した演技だった。
村上はコーチと喜びの抱擁、鈴木はラストシーズンへ雪辱
ショート3位と好発進の村上は、フリーも渾身の演技をみせた。冒頭の3回転ルッツを、いつもの練習と寸分違わぬスピードとタイミングで、ピタリと決める。完全に練習どおりの動きで、そこからは不安要素なく、次々とジャンプを決めた。演技を終えて、山田満知子コーチと抱き合って大喜び。「心の面で大きく成長できたシーズンでした。いつも試合前は緊張して焦ってしまうことが多かったのですが、ショートもフリーも落ち着いてできました」と満面の笑みをみせた。
フリーは123.09点、総合189.73点で、キム、コストナー、浅田についでの4位と大健闘。「私は置いていかれてない、という自信になりました。まだミスがなくてもフリーの点が低いので、表現力や滑りが足りないのだと思います。もっとなめらかに滑れるようにしていきたいです」と意欲を語った。
一方、鈴木はジャンプに苦しめられる大会となった。ショートでの不調は、フリーになっても調整が効かない。冒頭の3回転フリップを回りきれず、続くダブルアクセルで転倒。そこから立て直しがきかないままミスが続き、フリーは103.42点で、総合12位となった。
調整ミスの原因は、練習リンクと本番リンクでの氷の質が違ったこと。本番リンクは柔らかく、スピードを出して思い切り踏み切らないと、ジャンプのタイミングが狂うのだ。もちろんその調整も含めて実力であることをベテランの鈴木は痛いほど分かっていたが、練習リンクで調子が良すぎただけに、気持ちの切り替えが難しかった。「本当は調子がいいのにって思ってしまったんです。こちら側からリンクの質に合わせなければならないのに、(受身になり)氷がしっくりこないと思ってしまいました。自分を信じきれなかったのだと思います」と肩を落とす。
昨年は世界選手権3位と活躍し、そのプレッシャーを背負った今季は成績に波があった。四大陸選手権では好演技をしており、課題はピーキング。「あと1年と決めているので、この経験を無駄にしないようこれからの糧にしたい」と雪辱を誓った。
カナダ主催の世界選手権、
大声援が生んだ名演技
カナダをあげての大イベントとなったISU 世界フィギュアスケート選手権 2013は、選手だけでなく、応援も素晴らしい大会だった。もともとお祭り好きな性格の上に、フィギュアスケートへの愛着も強いカナダ人。たとえ選手が1つ目のジャンプを失敗しようとも拍手で背中を押し、最高の演技を引き出そうと会場全体がサポートする。結果として、浅田は6年ぶりに、コストナーは鼻血を出しながらも、そして李子君(中国)、グレイシー・ゴールド(米国)、村上佳菜子らが、渾身の演技で自己最高得点をマークした。
アメリカ期待の若手、グレイシー・ゴールド。 |
ロシアをけん引する16歳。「モスクワの天才少女」アデリーナ・ソトニコワ。 |
17歳のカナダ女王。プレッシャーを感じさせない演技で7位に。 |
エリザベータ・トゥクタミシェワ。 体重調整に苦労したシーズンだったがそれでも演技をまとめてくる非凡な才能を感じさせる。 |
中国のジジュン・リー。 FSだけなら4位と大健闘。人を幸せにする滑りをする16歳。 |
村上佳菜子。総合4位入賞。 |
カナダの国旗色のジャージを着た観客らが、何度もスタンディングオベーションや声援を送り、揺れに揺れたスタジアム。フィギュアスケートへの愛を感じる大会となった。
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